一枚の写真
「一枚の写真」というシリーズを昭和五十五年朝日新聞が連載し、その切抜きを残している。
その中に、終戦前小浜湾で沈没した駆逐艦「榎」に関する一枚があり、
次のように解説されている。
<所有> 小浜市貴船 料理仕出し業米谷佐市さん(六十二)
「終戦直前、小浜湾で沈没した第十一水雷隊の駆逐艦「榎」である。
乗組員だった米谷さんが戦友から譲り受けたもので、
撮影時期や場所は知らないという。
「榎」は終戦二ヶ月前の二十年六月太平洋方面への出陣に備え、
小浜湾の双児島付近で停泊中、米軍のB29が投下した磁気機雷に触れ沈没、
乗組員三百五十人のうち二十六人が戦死するという悲惨な最期を遂げた。
米谷さんは機関上等兵曹だったため、艦のほぼ中央部の機関室にいて
九死に一生を得た。「爆発音とともに、ぐらっと揺れて体ごと吹き飛ばされた。
気がついたときは、病院のベッドでした」。それ以外、当時のことは覚えていないそうだ。
沈没した「榎」は戦後間もなく引き揚げられている。
「榎」の沈没は、小浜市民にとってただ一つの身近な戦争体験であった。(以下略)」。
この年の八月二十三日、海軍の学校から私は帰郷した。
湾内に沈艦が見えていたが、それが榎であったかどうか、
父母も知らず、瀬戸内の海で空母他が撃沈されている風景に馴れていた目に
何の違和感も感じなかった。北川河口に長らく沈没していた軍艦があり、
鱚釣りなどでその傍を通っているが榎ではなかったと思う。
青葉を乗せて偽装していた一隻が今も記憶にあるのだが、
その沈艦とダブりはっきりしない。古い話だ。
句誌「ほととぎす」同人 森田 昇