残 雪
残雪の這ひをる畑のしりへかな 虚子
高浜虚子の句であるが、戦時の昭和十九年九月虚子は
信州小諸に疎開、戦後二十二年十月までその地小山氏の
持家を借りて居住する。八畳二間平屋の質素な一軒家に、
夫妻とお手伝三人が暮らした。四国松山生まれの虚子に
とって小諸の寒さは苛酷なものであったが、雪国の風物
人情に興味もそそられ、さまざまな角度から佳句を量産、
虚子句昇華の時代ともいわれる。
いづくとも無く風花の生れ来て 虚子
山の雪胡粉をたヽきつけしごと 虚子
「謡曲」「鉢木」の主人公佐野源左衛門尉常世は、
零落の身に雪の厭わしいことをかこちつヽ
「いかに世にある人の面白う候らん」と飛来する雪に詠嘆の詞を投げて
(略)二、三日降り続いたあと朝から空が限りない青さで晴れることがある。
(略)雪解の風情に愛着を覚えるのは、冬を装う最も冬らしいものヽ中に、
暖かい春のけはいを感じるからであろう。」、
畏敬する吉田正喜先生の随筆「雪解け」が私には思い出される。
句誌「ほととぎす」同人 森田昇
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