入日と風と恋をいどめる
ふと空を見上げた時に、雲の美しさにはっとしたことはありませんか?
小浜出身で明治時代に活躍した歌人、山川登美子は、
たなびく雲を長い髪に見立てて、物語のような短歌を詠んでいます。
髪ながうなびけて雲はそぞろなり
入日と風と恋をいどめる
『恋衣』
この歌の情景を想像してみましょう。
雲は風にさそわれ、長い髪をなびかせるように
美しい姿を見せています。そこへ夕日が近づいて瞬く間に雲を
黄金色に染めました。雲は夕日にときめいたようです。
風は雲をそのままにしておきません。
風もまた雲を意のままにしたいのです。
風に強く迫られて、そわそわとさらに長く髪をなびかせる雲。
一方、夕日は傾きながら、雲をだんだんと紅く燃えたたせてゆくのです。
この歌の中で、雲は髪の長い女性のようです。夕日と
風はそれぞれ雲をわがものにしようとアプローチしています。
登美子は雲を眺めながら、大空の恋の物語を詠ったのですね。
今年は感染症拡大予防のために制約を受ける日々ですが、
時には空を眺めて心をあそばせ、
ささやかながら豊かな時間を楽しめるといいですね。
りとむ短歌会所属 北野よしえ